Episode 2 : NUDE Vol.2 Day 1
9月9日土曜日。10時過ぎに小田原の姉の家を出発した。天気予報はボチボチいい方向ということだが、まだスッキリしていない。
「Quintet Presents NUDE Vol.2」。この集いでは、僕のジャークチキンとライス&ピーズが期待されているらしい。
僕自身多分そういったお店的なことをやるのは嫌いではない。むしろ好きなのだろう。だから昨年、一昨年と、そんなメニューを提供してきた。
だが、今年は若干状況が異なる。去年までは小田原の家に住んでいた頃の話だ。充分に仕込みの出来る場所も時間もあったのだ。現地でやることを最小限にして、割と万全な体制で臨んでいたというのはある。
今回からは仕入れは当日。仕込みも現地でやることになる。なのでジャークチキンも多少はやるがメニューを変更することにした。昨年、7月、8月、9月のひと夏だけケイシロウ夫妻と稼働させたDJバー&BBQの店「HAYAKAWA39-01」用に開発したレシピ「その場で合わせるバターチキン・カリー」をやることにしたのだ。
スパイスさえ揃えてあって、カレーのベースとなるタクコ・ペースト(ターメリック、クミン、コリアンダーです)さえ仕込んであれば、簡単な材料ですぐ出来る。作ると割とみんな驚く。そして結構美味いと思う。意外と僕はそっち方面のサービス精神が旺盛なのであった。
ところが仕入れで寄った業務スーパー小田原東町タケノコ店が、2大重要な材料、ブラジル産2kgの鶏もも肉と、500gで350円程度のスーパー激安便利なオニオン・ソテーを切らしていたのだった。
甘かったとも言えるが大誤算。
まず鶏肉は質は上がったが量的にはダウン。玉ねぎもイチから微塵切りはちょっときついと思って予めカットしてある冷凍ものに変更せざるを得なかった。ま、それでも出来るけどね。
気を取り直して正午あたりの到着を目指して出発だ。
iPhoneのマップを設定しようと思ったら、Siriからの提案で、カレンダーに登録してあったスケジュールの本日の目的地、山梨県富士吉田市の「Peace One」へのルートを示してきた。
気が利くじゃねえかとそのルートを採用したのはいいが、R246の小山ぐらいから、メッチャ訳の分からん山の中を通る道に誘導されてしまった。
霧の山道を走らされ、山中湖に出てホッとひと安心、と思いきや、今度は住宅街に入り込み、忍野小学校の校庭の脇を抜けて、いきなり山道へ誘導。
さんざん悪路の山道を走らされた挙句「これで本当に合ってんのかよ」みたいな「ポツンと一軒家じゃねんだぞ」みたいな気分になった頃、唐突に到着した。
空はいつしか快晴。村田さん率いる東京チームの設営要員の男たちと、機材車の史朗は到着していた。
さあて、オジサンたちの祭りの始まりだ。
今回使うメイン・スピーカーは、僕が所有しているTaguchi FB12の外側に更に20cmのユニットを4つも加えたタイプに、30cmのウーファーを組み合わせたシステム。
こだわりの作品しか上映しない映画館「アップリンク」の吉祥寺店、京都店の全スクリーンに導入されているものと同じ型だ。これがネットワーク・ケーブルを使うことによって、アンプ1台、2チャンネルで鳴ってしまうのだ。超クリアな音質に充分なパワーを兼ね備えている。さすが社長。
2021年7月に社長が亡くなった時の僕のFBの追悼の投稿に「田口さんはその音の中に生きてますね。」というコメントを、大先輩で大ベテランの舞台監督のハリマオさんが寄せてくれた。心に沁みた。以来、Taguchiのスピーカーを自分たちで鳴らすイベントをやるという行為は、僕にとっては社長への弔いとなった。それは今後も変わらない。
といったところで、メシの準備をしなければ。
まずは鶏肉を、塩、ブラックペッパー、粉末のオールスパイス、シナモン、少々のカレーパウダーで味付けし、生タイムと一緒にマリネしておく。本来ならこれにトマトやネギ、玉ねぎも一緒に漬け込むが、無しでも普通にジャークチキンな味になる。ジャマイカの激辛ペッパーの生のスコッチボネットがあれば最高なのだが、要はオールスパイスなのだ。
次に面倒臭いことに飴色玉ねぎソテーを作らなければならない。あの業務スーパーのやつさえあればこの工程はスキップ出来るのだ。やはりあの商品は最高だ。冷凍のみじん切り玉ねぎは水分が多く、それがまた余計な手間だった。59歳のオジサンがひとり大汗かきながら中華鍋を振る姿に同情した人々が変わる替わる訪れる。出来たらそこにタクコを投入。全て目分量。勘だけだ。しっかり混ぜ合わせればベースのペーストの完成。
付け合わせの酢の物用に、玉ねぎ、きゅうり、ピーマンをカット。トマトは今回は全て輸入物の紙パックのやつを使用。ニンニク、生姜もチューブを使用。トッピングのパクチーを粗微塵にカット。鶏肉を小さめの一口大にカット。仕上げに4合のバスマティ米を炊いて蒸らす。ここまでやれば仕込みはいいだろう。1時間半ぐらいはそれに集中していた。
18時。史朗のDJで宴の初日は始まった。もう既に15時ぐらいから呑んでいたが、まずは乾杯の声が飛び交う。みんな楽しそうだ。僕と史朗、山梨在住のトイちゃん以外はほとんが梅ヶ丘のQuintetの常連たち。世田谷スタイルなのだ。
宴は進んで行った。音は最高!雰囲気最高!空気も最高!気温も最適!今回は初めての2泊3日なので、今夜はみんな全開だ。何つったて、明日も明後日もあるのだ。今日少々やり過ぎても大丈夫だという安心感がある。それはいいが、Turboさんとかかなりベロベロだが、大丈夫なのか?史朗もかなり酔っ払っている。
本日炊いた米も終了したので、今日のキッチン・ワシはクローズ。さあオレもDJモードに切り替えだ。6月末に送別会的なパーティーをやって以来のDJだ。今日明日と2日分、いい感じのプレイ・リストを作ってあるぜ。
僕の出番が近くなり、セッティングを換えるにあたり、一度史朗にブース上に来てもらった。
ブース裏で機材を出したり準備していると、僕の背後から水音が!振り向いて池を覗くとそこにまさかの史朗の姿が!!慌てて引き上げる。
設営している時からみんなで冗談で「落ちるヤツいないよね」と話していたのだが、期待に応えてくれるヤツだ。でも僕が呼んでブース上に来てもらってただけに、少し申し訳ない気持ち。申し訳ないけど、まさかの池ポチャは想像を超えていた。
史朗、申し訳ない。でも面白かったからいいよな。
そんんこんなで軽快に快調に気持ち良くDJをやらせて頂いた。
気持ち良く曲をかけていたら、今度は、メインDJのTurboさんがベロベロになり過ぎているという。村田さんに𠮟咤されながらブースに来たが音が出ないという。加えてメガネを失くしてPCの画面が見えないらしい。「今メガネかけてるじゃないですか」と聞くと「これ誰のメガネ?」と聞き返された。僕に分かるはずもない。
Turboさんのセットは独立した回線で、本番前から接続されていたのだが、分からないので史朗を探すと、既に車の中で死んでいた。再起不能。ワヤですな。
しょうがないから村田さんの判断で、本日は最後まで僕がDJさせて頂くことになった。僕としては全く問題ない。むしろ存分にTaguchiのスピーカーで大音量でDJ出来て、超楽しかった。2日分のDub Techno中心のプレイリストを2時間近くで一気に掛けて、更にLovers Rockを1時間ぐらい回させてもらいました。
史朗、Turboさんには申し訳ないが、自分的には大満足だ。
そうして1日目の夜は、0時過ぎに音を止め、その後は各自が自由にのんびりと過ごしながらお開きとなったのであった。