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近畿地方のある場所について/背筋

「モキュメンタリー」と言うのだそうだ。

こうしたフェイク・ドキュメンタリー形式の映画や小説のことである。

擬似を意味する “モック” と “ドキュメンタリー” を合成した造語だ。ホラー作品で用いられることが多いだろう。

有名なものとしては、1999年制作のアメリカ映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」であったり、日本のホラー小説では小野不由美の「残穢」などが挙げられる。

例えばだが、映画化もされた物件ホラーの先駆的な小説「残穢」は、基本、筆者と思われる「私」の1人語りで進行していく形をとっており、そう言う意味では普通に分かり易い。

だが、本書「近畿地方のある場所について」は、初出がカドカワのWEB小説投稿サイト「カクヨム」での連載だったこともあり、文章の形式が怪しいネット投稿の様な体裁をとっており、一見、関係のない短い文章の連続が、やがて意味を成してくるという不気味な作品だった。

何だったか忘れたが、何かの折りにこの小説が怖いらしいという情報を得た。多分初版が発行された去年の8月とか9月の頃の話だったと思う。

でも変なタイトルだったから正確に覚えられず「近畿地方の何たら〜」っていうのが面白いんだな、というインプットだけはされていた。

少しの間、忘れていたのだが、それが僕の愛読書「怪と幽」No.16のブック・レビューのコーナーで紹介されていて、「これだ!」と思って、即ゲットしたのであった。メルカリで。

早速読んで、このブログの「BOOKS」で紹介するんだと張り切っていたのだが、読後、最初に思ったのは「レビューするのやめとこうかな」という感想だった。

それほどに嫌な怖さの読後感を与えてくれる「呪物」の様な小説だった。

冒頭、いきなり「某雑誌2017年7月発行掲載、短編『おかしな投稿』」という文章から始まる。無断転載の違法エロ動画サイトを見ていた投稿者が見つけた、おかしな書き込みについての短い文章だ。

時系列が遡り、次は「某週刊誌1989年3月14日掲載『実録!奈良県行方不明少女に新事実か?』」が続く。

続いてやっと「私」ことオカルト・ライターであり、本書の作者と同じペンネームの登場人物の背筋さんにより、この文章群がなぜ一冊の本の体裁を取ってまとめられているのかの説明がなされる。

これらの文章群は「私」の友人の、新人編集者の小沢くんが、初仕事として任されたオカルト系ムック本において、彼が考えた企画のために集められた資料なのだという。

「私」は、歳の離れた友人である小沢くんの初仕事を手伝うことになり、その成り行きを共に見届けることとなる。

そしてその小沢くんの消息が分からなくなってしまったので、情報があったら提供して欲しいと読者に訴えてくるのだ。

低予算のムック本なので、新規の取材なども出来ず、バック・ナンバーの継ぎ接ぎで本を構成することを余儀なくされた小沢くんは、全てのバック・ナンバーに目を通すうちに、全く関係のないと思われていたいくつかの心霊事件が、実は近畿地方のある場所付近で頻発していることに着眼し、関連性を調べ始めたのだという。

それがこれらの、実際にその某雑誌に掲載された記事であったり、取材メモであったり、ボツになり未発表だった原稿であったり、録音されたインタビュー起こしのテキストであったり、読者の投稿であったり、WEBでのオカルト・スレッドでの書き込みであったり、といった、形式も文体もバラバラな文章群なのであった。

合間合間に挟まれる「私」と小沢くんの会話により、謎が徐々に体裁を整え始める。

ひとつひとつの短い文章は、それ自体がショート実話怪談の様な感じもあり、小さな恐怖が徐々に読者の脳内の記憶中枢に蓄積されていく。

終盤に至り、不気味な姿を形成した「近畿地方のある場所」が見えてきたところで、本書は衝撃的な結末を迎えることになるのだ。

深夜0時頃、奥さんが隣りでスースー寝てる横で読み終わったのだが、悶々として眠れなかった。

「何つう終わり方だよっ!」

それが僕の最初の感想だった。

そしてこれがフィクションであることを分かっているはずなのに「この本は広めちゃいけないのかな」ぐらいな気分に軽くなっていたのだ。

内容を整理するために、1回目ではちょっと理解が甘かった箇所を全て読み返し、全体を把握し直し、このテキストを作成するために多少のネット検索してみた。

するとカドカワの公式サイト「カドブン」に、作者背筋さんのインタビューが掲載されていた。それを読んでやっと「そうだよな、普通に小説だよな」ということを再認識出来、やっぱりここでレビューしようと思えたのだ。

まあ、このブログはそもそも単なる僕の趣味で、全て勝手に書いていることだから、何を掲載するのも僕の勝手なのだから、何だっていいはずなのだが、、、。

そもそもホラー小説って、僕は、設定が面白かったり、ミステリーの仕掛けが面白かったりするから好きなのであり、シリーズものだとそのキャラクターに愛着があるから読むのだ。あの「リング」なのだが、原作の小説は非常に面白い。2作目の「らせん」など傑作だと思ってる。

だけど、本当に怖いと思えるものはそうそう無い。でもこの本は怖かった。

正直、ホラー小説が好きな人なら最高に面白いと思うので絶賛お勧め致します。斬新だし。

嫌な人はそもそも読まないでしょうし、それでいいです。

とか言いつつ僕なんて「ナンちゃってホラー小説好き」に過ぎないし、こんなエラそうなこと言ってていいのかと思うんだけどね。


この作者背筋さんは次回作を執筆中らしい。僕はすぐに読むと思います。

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