DUB入門〜ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ/監修:河村祐介
1995年に世界初のテクノ専門誌として創刊され、2000年の第35号まで月刊誌として発行され、現在もWEB版で精力的に発信を続ける「ele-king」のムック版「ele-king books」からの刊行物。
サブ・タイトルにある様に、レゲエにおけるダブに留まらず、広範囲なフィールドでの解説とディスク・ガイドを期待して読んでみた。
本誌の中で、鈴木孝弥氏(この方は長いキャリアを持つ骨太のレゲエ・ライターさんです)の「キング・タビーとはなにものなのか?」とい寄稿の中にあった「原理的ダブ」と「自律的ダブ」という言葉が非常に印象的だった。
リミックス作業による副産物でもある「原理的ダブ」は、その語源の「Dubbing」や「Double」が示す通り、原本あってこその作品である。要するにジャマイカにおいて産まれたダブの手法と、それを今でも踏襲している作品ことだ。
「自律的ダブ」とは、「原理的ダブ」の手法であったエフェクト処理や音響的な加工によって得られる音の質感そのものを利用して、最初からダブ的な作品として作られるもの。ダブの影響を受けて作られた広範囲のジャンルに存在する作品群のことだ。
この後者の「自律的ダブ」を認めなければ話は進まない。
本誌では第一章「ダブのルーツ」、第二章「拡散」、第三章「DJカルチャーとダブ」、第四章「日本のダブ」、第五章「拡張」、第六章「モダン・ダブの冒険」と分けて、分かり易く紐解いて行く。
そのディスク・ガイドには、実際聞いてみたい作品が多くあり、SpotifyやBandcampを通じてこれからいろいろ聞いてみようと思っている。
そうやって聞くことが出来るのだから今はいい時代である。
難を言えば、21世紀に入ってからの作品がゼロ年代前半辺りまで止まってしまっている感があり、新しい作品もあるにはあるが、現行シーンを見渡せているかと言えば、偏向していると言わざる得ないのかな。
でもそれも分からないでもない。
僕がDub Technoを本格的に聴き始めたのは2014年からなのだが、聴くにあたって参考になる国内情報など何もなく、ただひたすら自分なりにSoundcloudでフォローしたクリエイターやレーベルの音源を聴きながら、気に入ったものをBandcampやBeatportで購入するだけであった。
選択基準は自分が気に入ったかどうかで、それが優秀な作品であるというジャーナリズム的なお墨付きなどないし、そんなものハナから気にしていない。
ただ傾向は少し分かることはある。プレイリストの付いている複数のub Techno Mixを流すYoutubeチャンネルで、重複する曲やレーベルを探すのである。
それでも各レーベルの国籍は多岐に渡り、アーティストも無数に存在する。
ネット上には音楽が溢れており、Bandcampの中では多くの作品が、レーベルと購入者と直に近い状態で自由に流通している。
音楽評論が立ち入る隙間は今やリアタイではあまりないのかも知れない。ただある一定期間が過ぎた過去の作品なら評価も定まり、評論の余地も出てくる。と言ったところか。
まあ、僕は自分なりのDub Techno周辺しか知らないので、決して偉そうには言うつもりはないが、それにしてもゼロ年代前半はもう四半世紀前と言っても過言ではないんじゃない?とは思った。
高校生ぐらいの頃から音楽雑誌は好きだった。
高校生の頃は「プレイヤー」「ロッキン・オン」などの洋楽ロック雑誌をよく読んでいた。それが大学生の頃には少し難しい「ミュージック・マガジン」になり、20代前半は最初の頃の「レゲエ・マガジン」を毎号買って夢中になって読んでいた。
今でも本屋で立ち読みする時間が出来た時などは「ミュージック・マガジン」をペラペラっとめくったりもする。
好きなライターさんも多くいた。そうした人の勧める音楽を買っていた。
森脇美貴男さんの原稿を集めた「パンク・ライナーノート」という本には影響されたと思う。記憶が曖昧なのだが、同書の中にあったザ・クラッシュのセカンドのライナーノートの一節で「彼らは血も吐かない。火も吐かない。ただ毒を吐く。」というのがあったと思うのだが、当時、「おおお、かっこいいぃぃぃ」と思ったもんだった。
長じて自分も人生のある時期、30代から40代の半ば辺りまでにおいて、音楽ライターまがいのことをやらせてもらう機会を得たのだが、その頃の名残で、今でもこうして自己満足の駄文を書き連ねている次第である。(ダブだけにダブン。あ、すいません。)
それにしても今回久しぶりに音楽関係の本を買ったもんだ。
僕は買った本を処分することはほとんどしないので、今目の前にある本棚をチェックしてみたら、自分で買ったと思われる音楽関係の本はミュージック・マガジンの2007年7月の「永遠のスタジオ・ワン」という特集が組まれた号が最後だった。
17年前かあ。そんなにも長い間、僕は音楽評論を読むことが嫌になっていたのかも知れない。
今回、この「DUB入門」を買って最も良かったことは、最後の章の「モダン・ダブの冒険」のディスク・レビューの中に、Daisuke Kazaokaの「サウンドスケープ」が載っていたことだ。
ライターのクレジットがなかったので、主筆の河村祐介さんが評したものと思われる。
いいねえ、河村くん!(あ、すいません。)
DUB入門ーールーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ (書籍) [ 河村祐介 ] 価格:2695円 |