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穢れた聖地巡礼について/背筋

デビュー作である前作「近畿地方のある場所について」で、ホラー小説界に衝撃を与え、のみならず構成作家として、テレビ東京のモキュメンタリー番組「イシナガキクエを探しています」などの制作に関わり、Z世代の恐怖感覚とでも言うべき世界観を世に知らしめた作家、背筋の、期待の長編小説第2作目。

様々なメディアの様々な文体を駆使して読者を混乱させた前作とは趣向を変え、オカルト中立派のフリーの編集者の小林、幽霊否定派のYou Tuberの池田、霊能者の宝条の、3人の登場人物のテンポのいい会話劇で進んでいく今作。

読み進める作業自体は前作より楽ではあった。前作「近畿地方のある場所について」は、前後の文章と文章の繋がりが全く無かったりして、やや難解な部分もあったからだ。

そのテンポの良さから、どんな着地が待っているのかと思いながら読み進め、いい感じに収束して行くのかと思いきや、やはり普通には終わらず、説明されない謎は謎のまま、やや腑に落ち切らない終わり方だった。

まあ、この居心地の悪い読後感は、それが作者の意図するところの、嫌な余韻、であることは間違い無いだろう。

一筋縄では行かない作家ではある。

WEB時代の出版不況の煽りで仕事の減少に焦りを感じているフリーの中年編集者の小林は、現状を打開するための新しい企画を通すために、かつてオカルト雑誌の編集者だった経験を活かし、心霊スポット探訪動画で人気のYou Tuber ”オカルト・ヤンキー、チャンイケ” こと池田に接触し、彼のチャンネルのファン・ブックの出版の話を持ち掛ける。

夏になるとコンビニでよく売ってる様な、心霊ムック本の類のことだろう。

若干自分のYou Tubeチャンネルの再生数に翳りを感じていた池田はその話に乗る。

池田の動画の中でも人気のある心霊スポットの追加取材をして、新事実を加えて彼の動画の信憑性を高めた内容のする、というものだ。

そこで選ばれたのが再生回数の多い「変態小屋」「天国病院」「輪廻ラブホ」と呼ばれる3つの廃墟。

小林の仕事仲間で、神社の娘で「見える人」の宝条も加え、3人は取材を進めながら、新事実を見つけたり、でっち上げたりしながら、ファン・ブックがより面白くなる様、活動を続けるのであるが、、、、。

本作では「心霊スポットなどの廃墟の探訪」を、現代における聖地巡礼として捉え、そこに全国各地に民話などで伝わる「六部殺し」の伝承を絡めてストーリーを展開させてくる。

異人の来訪〜村人による異人の殺害、略奪〜村人の繁栄〜異人が村人の子供に生まれ変わる。

かつて全国を巡礼していた六部修験僧の受難の図式が、現代の巡礼者であるYou Tuber池田に重り、「変態小屋」「天国病院」「輪廻ラブホ」の、それぞれに纏わる怪談にもその構造が重なってくるのである。

小林、池田、宝条の3人にも、三者三様の闇がある。

小林には、ゴシップ雑誌時代に書いた自分の記事で、ある女性を自殺に追い込んでしまったという過去が。

池田には、美大生の時にふざけてやったコックリさん的な「カナエさん」という遊びで、片想いだった女性に呪いかけて、結果、彼女が死んでしまったという過去が。

宝条には、子供時代から霊能体質を揶揄されて、いじめられていた自分を理解してくれようとした教育実習生に、アクシデント的に悪霊を憑けてしまい、その彼女が死んでしまったという過去が。

それぞれの過去の因果と、現在の思惑が共鳴し、様々な怪異を引き寄せながら、ファンブックの企画は進行して行くのであった。

面白かった。

面白かったが、前作「近畿地方〜」ほどの怖さ、禍々しさは無かった。

無かったが、それで背筋という作家の力量を、良いとか悪いで判断するものではない。

間違いなく彼が「2作目のジンクス」を乗り越えて、新たな代表作としてカウントされるだろう作品を発表したと言っても良いのでは無いだろうか。

とにかく前作「近畿地方〜」は、例えば、あの鈴木光司の名作「リング」では、呪いのビデオ・テープという存在が、恐ろしいものではあるが、あくまで小説の中の設定で、自分は読者としてそのお話を読んでいるに過ぎないという、謂わば他人事だったのに対し、「呪いがかかっているのは、今あなたが読んでいるその本です。」というオチであった。

読んだ人間はその「巻き込まれちまった」感が怖い。そのオチに導くための文章の構造であり、フェイク・ドキュメンタリーという形であった。

本作はベクトルが違う。はなから小説である。読者はフェイクに騙されることはない。

ただじわじわと怖い話だとな、という感覚が増してくる。

結構重要なエピソードが、終盤に唐突に現れ、具体的な説明はされないまま終わる。あれは何だったんだ、という突き放された感じが残る。

この話は続くのか?続きの話で謎は説明されるのか?

まだ2作しか発表していない未知数の多い作家なので、何も断定出来ないが、何となくこの背筋という人はそういったベタな展開でシリーズ化、というのは無さそうな気もするのだが、どうなんだろう。

全然関係ないところでその秘密を明かしたりするんじゃないかという気もするし、しばらくは目を話せない作家の1人であることは間違いなさそうだ。

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